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新刊案内 [掲載情報]

久しぶりの著書となる『吉本隆明』をアーツアンドクラフツから刊行しました。
以下、「後記ーー結論に代えて」を転載します。

《数えてみたら、わたしは5度、生前の吉本さんに会っている。
 最初は、わたしが文芸評論家としてデビューさせてもらった文芸雑誌「三田文学」で行っていた連続インタビュー「私の文学」で、2回目となる2002年夏季号に登場していただいたときである(「中央公論特別編集 吉本隆明の世界」再録)。文学的経歴の長い書き手たちに、自らの文学について語ってもらうという企画だったが、その話を収録するために文京区本駒込にある吉本さんのご自宅まで伺った。気持ちよく晴れた5月の午後だったが、初めて会うなり、客間らしい和室の畳に頭をこすりつけるようにして「吉本です」と挨拶された姿が、強くわたしの目に焼きついた。
 2回目は、おなじく「三田文学」で没後五年となる江藤淳の特集があり、そのインタビューを2004年の秋に行ったときである(2005年冬季号)。ほぼ同時代を生きた文芸評論家である江藤淳について、ふたたびご自宅で率直な話を語ってもらった。わたしは試行錯誤しながらどうにか文芸評論を書き継いでいたが、いくつも現在の文学をめぐる問題を挙げられて、それについて考えることが「田中さんたちの課題になる」と言われたことを思い出す。なにをどうすればその課題に応えたことになるのか、それ以来ずっと考えているのだが、たいした仕事もできないまま10年近くが過ぎてしまった。
 それから2007年ごろに、わたしの本を担当してくれた編集者に連れられて、吉本家の春のお花見の会と年末の忘年会に参加している。吉本さんが大きな座敷の隅っこの方にいて、静かに微笑んでおられた様子をよく覚えている。
 最後にお会いしたのは、文芸雑誌「群像」2009年新年号に掲載された吉本さんのインタビュー「文学の芸術性」で、聞き手を務めたときである。11月に入ったばかりの薄曇りの午後だったが、いつものご自宅での談話は尽きることを知らず、容易に答えが出るはずもない文学の問題について語りつづける姿は、まぎれもない現役の文芸評論家のものだった。その姿はいまもわたしのなかに鮮やかに生きている。

 わたしは1999年7月に亡くなった、江藤淳の文学について論じることで文芸評論を書きはじめたが、現在までのところ文芸評論家としてもっとも影響を受けているのは、おそらく吉本隆明からである。たとえば2006年に時評的な文章を書くことになったときは、その文芸時評である『空虚としての主題』をひそかに手本と考えていたし、文学についての基本的な考え方はその文学理論である『言語にとって美とはなにか』に多くを学んでいる。また『マス・イメージ論』で提示された、1980年代以降の日本語による現代文学についての課題は、いまもわたしの宿題でありつづけている。
 だからその吉本隆明が2012年3月に亡くなってから、わたしはいずれかならず吉本隆明の文学について1冊分の文章を書き、その文恩に報いなければならないと思ってきた。そうしたら、2013年に50枚ほどの「詩人批評家の誕生——吉本隆明論序説」という文章を寄せた『吉本隆明論集——初期・中期・後期を論じて』を刊行したアーツアンドクラフツの小島雄さんから、吉本隆明について論じたものを1冊に纏めませんかというお誘いをいただいた。
 それから1年がかりで、300枚ほどを書き下ろした。それはわたしが会ったことのある吉本さんではなく、だれもが文章で出会うことのできる吉本隆明について書いたつもりだったが、しかしあらためて考えてみると、自分が打ち込んで読んだ文学者については「一冊の本を書かなければ収まりがつかない」「本格的な返礼という意味で、書かなきゃいけない」という流儀は、実は最初にお会いした「私の文学」のインタビューで吉本さん自身が語っておられたものである。つまりわたしは吉本さんの流儀で、吉本隆明の文学について論じたことになる。
 形式的には、先に書いた「詩人批評家の誕生」を序論と位置づけ、書き下ろした300枚ほどを3章からなる本論とした。結論が欠けているが、自分が打ち込んで読んだ文学者についての「本格的な返礼」としての「一冊の本」は、あらかじめ結論が決まっている。それはその文学者の文章を、わたしたちは読みつづけるべきだというものである。
 くり返そう。わたしたちは吉本隆明の文章を読みつづけるべきである。
 その理由を知りたい人に、ぜひ手に取ってもらいたい。》

興味のある読者との出会いがあったら嬉しいです。

吉本隆明

吉本隆明

  • 作者: 田中 和生
  • 出版社/メーカー: アーツアンドクラフツ
  • 発売日: 2014/06
  • メディア: 単行本



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